​このアプリについて

日本語失語症者のための文表出訓練教材(KPN1、KPN2、KPJ)

Ⓒ2019小嶋 知幸

武蔵野大学大学院人間社会研究科

人間学専攻 言語聴覚コース

小嶋 知幸

プログラム開発

岡山大学大学院自然科学研究科

笹倉 万里子

アニメーション開発

新屋 翔子

​アプリの概要

失語症は、身体的障害と異なり外見上明らかではないため、当事者の抱える社会的不利は必ずしも正当に評価されていないという現状があります。その不利を少しでも緩和させるための適切かつ効果的なリハビリテーション方法の開発がとても重要です。このアプリは、失語症のある方々のための訓練教材の中で、比較的開発が遅れている文の表出訓練用の教材を提供するために開発したものです。その際、従来の教材にはない新しい点は、①日本語の特性を検証した上で、日本語を母語とする失語症の方々をターゲットとして開発した点、②失語症のリハビリテーション教材において、従来ほとんど用いられてこなかった動画(アニメーション)を用いた点、そして、③教材システムをタブレット端末上に搭載した点です。

理論的背景

 失語症とは、脳血管障害をはじめとする脳疾患および、脳外傷などに起因する、後天性の言語障害です。平成28年4月より、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律「障害者差別解消法」が施行されるという社会的動向の中、失語症の領域においても、当事者に対する支援および効果的なリハビリテーションへの注目が益々高まっています。

    失語症に対するリハビリテーションの中で、単語水準の障害をターゲットとした訓練のノウハウはある程度蓄積されており、本邦でも一定の成果を挙げています(小嶋2005、小嶋2010など)。しかし、それに比し、単語より大きな言語単位、すなわち構文の障害(失文法)をターゲットとした訓練法の開発はいまだ限定的であり、とりわけ表出面に焦点を当てた訓練教材は非常に少ないのが現状です。

 ところで、日本語には、「手を洗う」「学校へ行く」など、主語のない文が決して例外的でも不自然でもないという特徴があります。このように主張すると、「それは省略されていると解釈すべきではないのですか」という反論が予想されるのですが、必ずしもそうとは言い切れません。省略というのは、本来はなくてはならない要素だが、特別な状況に限定して省いても構わない、ということです。しかし、例に挙げたような日本語の主語なし文は、私たち日本語話者にとって、まったく自然且つ、自己完結した文章だと言えないでしょうか。一部の日本語学者の間では、日本語の基本文型は、必ずしも英語・仏語などの欧米諸語とは同じではないという議論がなされてきています。中でも代表的なのが、三上(1972a、1972b)らが日本語に対して提唱した、いわゆる「主語否定論」です。

 我われは、日本語と英語を母語とする健常者を被験者として、上で述べたような日本語の特性を主張する三上文法の妥当性を、実験的に検証しました(小嶋ら2019)。

 それらの結果を踏まえた上で、日本語失語症者を対象とする効果的な訓練教材の構築を目指してこの言語訓練アプリを開発しました。

 

<文献>

1.小嶋知幸.失語症の障害メカニズムと訓練法.東京:新興医学出版社;2005.

2.小嶋知幸、大塚裕一、宮本 恵.なるほど!失語症の評価と治療.金原出版:2010.

3.三上 章.現代語法序説―シンタクスの試み.東京:くろしお出版;1972a.(初版は刀江書院、1953)

4.三上 章.続現代語法序説―主語廃止論.東京:くろしお出版;1972b.(初版は刀江書院、1959)

5.小嶋知幸、レビット順子、高津亘広、伊藤敬市.日本語失語症者のための文表出訓練教材の構築(第1報)—母語による文型の違いに関する言語横断的検討―.武蔵野大学人間科学研究所年報、8、105-139、2019.

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